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主催イベント

ハラール・フードに関する国際シンポジウム/International Symposium on Halal Food

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2018年7月14日に国際シンポジウム「ハラール認証制度と、認証に限らないハラールをより深く理解するために」が開催されました。



当日は30名ほどが集まり、議論は大いに盛り上がりました。参加した大学院生の皆さんに報告文を寄せていただきました。

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【報告1】

今回のハラール・シンポジウムは、(1)ハミド先生による「ハラール」の基本的な説明、(2)後藤先生による「ハラール認証制度」の歴史的展開の説明、(3)友松先生による宇都宮大学ハラール研究会の事例紹介と、概念と実践のバランスが取れた内容となっており、ハラールについての前提知識が浅い人でも分かりやすい内容であったように思う。

基調講演、およびパネルディスカッションを通して3人の講演者に通底していた考えは、ハミド先生の言葉を借りるならば「ハラール認証制度はビジネス中心であり、これを人間中心に変えなければならない」というものである。本来「何がハラールか」はムスリム一人一人が考えるべきことであるにもかかわらず、ビジネスが要求する「画一化」の波に押され、ムスリムの多様な実践を度外視したハラール認証制度が形成されてしまっている。ただし皮肉なことに、認証制度を契機にハラールに関する議論が活性化しているのもまた事実であり、闇雲に認証制度を否定するのではなく「必要悪」として捉え、制度の改善を通して、ムスリムがより安心して食品を購入できるシステムを構築する重要性を改めて感じた。

認証制度の改善に向けて、具体的に何をすれば良いだろうか。私はシンポジウムに参加する以前は、人間同士の信頼関係の構築がカギとなると考えていた。しかしパネルディスカッションにおいて、とあるムスリムが「友人からハラールだと聞いて食べていたものが、後にそうではないと判明したことがある。信頼はもはや成り立たない」と発言した。これを聞いて私は、信頼関係の構築には、認証制度が蓄積してきたイスラーム法や科学技術についての知見が欠かせないと反省した。今後の課題は、イスラーム法や科学技術の専門家が認証に関して情報を提供しやすい環境を作り、かつ一般ムスリムや非ムスリムにも分かりやすい形でその情報を公開できる態勢を整えることであると考えられる。

(報告執筆:東京大学総合文化・超域文化科学・文化人類学修士2年 田嶋望)

【報告2】

本シンポジウムでは登壇者3名から、ビジネスと共に急速に広まりつつあるハラール概念について、トピックをその認証化に限定せず、現状のハラールが抱える認識や矛盾、ハラールが浸透したその先について講演・議論が行われた。

中でも、ハミド氏によるPre-Stunning Slaughterを中心としたハラールと倫理に関する基調講演は、「在るべき」ハラールを食肉技術から考えるという、20世紀後半以降のイスラームの現代的な科学技術に対する議論の一部としてハラールの認識を位置づけることができるものであった。同氏によれば、ムスリムの手による屠殺こそが動物を安全にかつ高品質に食肉へと加工できるとし、延いてはこの迅速な処理過程は、動物愛護の観点からも尊重されるべきだと言う。この彼の議論はハラールに関するクルアーン5章3節を現代的な要請(食肉業や動物の権利など)とイスラームとしての信仰に折り合いをつけるために合目的的に解釈した所産である。

このハラール解釈に関して、後藤氏は同講演において、ハラールという尺度が孕み得る差別についての前提として、ハラールをはじめとしたイスラーム法解釈の多元性について言及した。それを踏まえて同氏は、ハラール認証が他者の排除につながらないように、認証条件は必要最小限にとどめるべきだと提言した。

ハラールは生殖医療のように、新しい科学技術を伴う問題ではないが、それは認証という動きを契機に、議論が活発化した。その結果後藤氏が指摘するように、ハラール認証に関して細やかな技術ガイドラインが作成されている。これはクルアーンの文言以上の規定であると同時に、現代において一定水準の生を享受する上で必要な要請でもある。ハラールの問題は、認証化というビジネスのみで語られるのではなく、日進月歩な科学技術が取り巻く現代でムスリムとして生きるとは如何なることかを問うている。

(報告執筆:東京大学人文社会系研究科修士2年 早矢仕悠太)

【報告3】

普段韓国に関する研究を行なっており、ハラールともイスラーム世界とも縁遠い私は、第二部のテーマ「ハラール認証制度と、認証に限らないハラールをより深く理解するために」を念頭に、今回のシンポジウムに臨んだ。

「イスラームにおいて食は信仰行為の一つである」というハミド先生の言葉は、ハラールについて認識を新たにする入り口になった。この事実を大前提にしたとき、ビジネス中心のハラール認証制度は当然改められるべきだろうし、友松先生がおっしゃっていたように日本で主となっている物質的・科学的アプローチよりも宗教的アプローチが必要になってくるだろう。しかし、ハラールが人間と神との関係で理解されるべき概念であるならば、日本の人口の9割以上を占める非ムスリムは、どのようにしてハラールを「理解」することができるだろうか。

後藤先生が示したマレーシアの認証制度の事例は、これを考える上での手がかりとなった。マレーシアにおけるハラール食品の生産・管理に関するガイドラインは、この数十年でかなり細かく厳密になっている。この事実は、科学技術の発展を感じさせるとともに、科学といえども常に絶対たりえないことを示す。ガイドラインがどれほど厳密になろうとも、それはあくまで人間が作ったもので、それを元に判断するのもまた人間なのである。

非ムスリムが(商業目的か否かに関わらず)ハラールを知ろうとするとき、ガイドラインよりまず、周囲のムスリムの声を頼るべきではないか。月並みな意見かもしれないが、「顧客の声」を商品開発や改善に取り入れるのは一般的なことである。ハラールについてことさら認証を重視するのは、非ムスリムなりの誠実さや戦略の現れかもしれない。ただ今回のシンポジウムとそこで交わされた意見を踏まえると、それらの行為は、かえって「理解」を遠ざける危険性もはらんでいるようにも感じられた。

(報告執筆:東京大学人文社会研究科・韓国朝鮮文化研究専攻修士2年 重岡こなつ)

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開催情報

【主旨】
世界のハラール食品の市場規模は1.3兆米ドル規模に達しており、食品以外の分野の市場規模はそれ以上であるとされているが、ムスリム・マイノリティの地域である日本においてハラール認証制度が普及し始めたのはごく近年のことである。加えて、ハラール・フードに関する国際ガイドラインが求められ、またガイドラインのいくつかが国際市場において用いられるようになったのもここ10年ほどのことである。

イスラームにおいて食は信仰行為の一つであり、ムスリムにとって食事規定を守ることは神に従うことを意味する。そうした信仰行為としての「認証に限らないハラールの世界」と、何がハラール・フードであるかを規定する制度である「ハラール認証制度」との間には多くの隔たりが存在するが、ムスリムでない人々の間では予備知識が十分ではないために往々にして混乱が見られ、認証されたハラールが唯一の真実のハラールであると誤解されてしまうこともしばしばである。

本シンポジウムは、国内外から有識者/研究者を招聘し、基調講演およびパネルディスカッションを通して、ハラール・フード・システム、ハラール認証制度およびハラールの世界をより深く理解することを目的として開催する。あわせて、ハラール産業への新規参入を目指し、正しい知識を必要としている人々にとっても有益な知見を得る機会を提供する。

日時/Date 2018年7月14日(土)13:00-17:00
July 14 (Sat), 2018, 1:00-5:00 p.m.
会場/Venue 東京大学農学部弥生講堂アネックスセイホクギャラリー
Yayoi Auditorium Annex, Graduate School of Agricultural and Life Sciences, The University of Tokyo
プログラム /Program  司会:荒木徹也(東京大学 農学国際専攻・准教授)
 
13:00~15:00 第一部 基調講演
13:00~13:40
「思考の糧:ハラール「食品システム ―科学と宗教―混乱、論争、知識の隔たり」
ハミド・アフマド(パキスタン科学技術庁 科学・産業研究協議会 食品・生物工学研究センター 畜肉・家畜製品研究室 前室長/前主席技官)
13:40~14:20
「「基準化」に帰着点はあるのか―ハラール認証制度の過去、現在、未来を考える」
後藤絵美(東京大学 日本・アジアに関する教育研究ネットワーク・特任准教授)
14:20~15:00
「ハラールをより深く理解するために―宇都宮大学ハラール研究会での活動経験から」
友松篤信(F&T JAPAN 代表、宇都宮大学名誉教授)
 
15:00~15:30 コーヒーブレイク
 
15:30~17:00 第二部 パネルディスカッション
「ハラール認証制度と、認証に限らないハラールをより深く理解するために」
モデレータ:荒木徹也
パネリスト:
ハミド・アフマド
友松篤信
後藤絵美
使用言語/Language 英語/English
主催/Organizer 東京大学農学国際専攻
東京大学日本・アジアに関する教育研究ネットワーク
後援/ Supported by 一般社団法人 ハラル・ジャパン協会