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アジアを知る:映画『ラッカは静かに虐殺されている』上映シンポジウム

  • シンポジウム

2018年3月26日に映画『ラッカは静かに虐殺されている』の上映シンポジウムを開催しました。

【報告】

 映画『ラッカは静かに虐殺されている』は、シリア北部の町ラッカ出身の若者たちが、どのようにして故郷の姿を世界に伝え、それによってIS(イスラム国)との苛烈な戦いに身を投じることになったのかを描いたドキュメンタリー作品である。邦題の「ラッカは静かに虐殺されている」は、市民ジャーナリストとなった若者たちが集ったグループの名前(Raqqa is Being Slaughtered Silently, 略称RBSS)からとられた。彼らは、ISの「首都」となった故郷ラッカから日々送られてくる写真や動画、ショートメッセージや電話などの情報を編集し、インターネットで世界に向けて発信している。冒頭には、授賞式の場にもかかわらず不安げな表情を浮かべるメンバーの姿に、ISの処刑ビデオが重ねられる。後に観客は、そのオレンジ色の服を着せられた男性が、そのメンバーの父親であることを知らされる。時系列を織り交ぜた編集は巧みであり、一見すると劇映画のような作品となっている。

 本作品の上映後には、東京大学大学院修士課程の山田一竹氏、国境なき医師団に参加する看護師の白川優子氏、東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所の黒木英充氏、東京大学大学院総合文化研究科の李美淑氏によるパネルディスカッションが行われた。山田氏からは、同世代の若者たちを描いたこの映画から「人間のリアリティ」を感じたとの言葉があった。そのうえで、自由と尊厳を求めて虐殺と恐怖に立ち向かった人間の物語としてこの映画を捉え、そうした人びとのためにどういった行動ができるのかを私たち自身が考えることが重要であると山田氏は提起した。白川氏は、国境なき医師団の活動のなかで見たラッカの様子から、映画で描かれた若者たちの活動が非常に重要なものであることを指摘した。白川氏は、ラッカで出会った被害者たちの多くが他の地域に見られるような銃撃や空爆ではなく、地雷による被害を受けていたことを述べ、一般市民がISと空爆を逃れて地雷原を逃げるしかない状況に追い込まれている惨状に聴衆の注意を喚起した。黒木氏は、映画『シリア・モナムール』上映の際に原一男監督が述べた「いろいろな視点が混ざっている」という指摘が、この映画にも当てはまると提起した。そして、『シリアの秘密図書館』という書籍を紹介し、この映画に描かれたように破壊や虐殺と戦う人びとが、同じように各地にいることを述べ、特にIS支配下で教育を受けてしまった子どもたちのリハビリが全世界的な課題であることを強調した。最後に李氏は、この映画によって「情報」がISと戦えるほどの武器となっている事実を、(ISが支配した公共圏に対する)対抗的公共圏の形成という観点から論じた。国際的なネットワークのなかでこの映画が作られ、さらにそれを上映することで本シンポジウム自体もそうしたネットワークのなかの一つの応答となっている点を述べた。また、ドイツで出会ったシリア難民から朝鮮戦争を例にシリアの現状を説明された自身の経験を踏まえて、シリアの状況を「内戦」と捉えることの問題を述べ、周辺国や大国を含めた構造的な描かれ方がこの映画ではなされていなかった点を指摘した。

 最後に、マシュー・ハイネマン監督にスカイプを通して登壇頂き、ISについてリサーチを重ねるなかでRBSSに行き着いたこと、多くの政治的映画がある中で異なる視点からの映画を撮りたかったことなどをお話し頂いた。会場に集まった学生や社会人を含め多くの参加者からは、現在のシリアの状況などに関する質問が多く出され、監督とパネリストを交えた非常に活発な応答がなされた。(報告執筆:日本学術振興会・特別研究員PD 鈴木啓之)
 
【告知】

 本作は、戦闘が激化し混迷を極めるシリア内戦で秘密裡に結成された市民ジャーナリストたちと「イスラム国」(IS)とのSNSを駆使した駆け引き(ニュータイプの戦争と言われる闘い)を、現実の出来事とは思えない壮絶な緊迫感で捉えたドキュメンタリー映画です。
 シンポジウムでは、上映に続いて、東京大学大学院生の山田一竹さん、シリアで医療活動を行った国境なき医師団の白川優子さん、中東近現代史の専門家の黒木英充さん、市民ジャーナリズムを研究対象とする李美淑さんの四人による座談会を行います。さらに、マシュー・ハイネマン監督に登壇頂き(スカイプ出演)、混迷深まるシリア情勢、戦争報道の歴史を変えたシリア内戦での市民ジャーナリズムの可能性について考察します。
 本シンポジウムは、特に現代メディアやシリア情勢に関心を持つ学生の皆さまのご参加を歓迎しております。ご参加をご希望の方は、必ず下記の事前申し込みをお願い申し上げます。
 ※学生ではない一般の方にもご参加頂けます。

日時 2018年3月26日(月)17:00~20:30(開場16:30)
場所 東京大学・本郷キャンパス東洋文化研究所3階大会議室
登壇者 山田一竹さん(東京大学)

白川優子さん(国境なき医師団)

黒木英充さん(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所・教授)

李美淑さん(東京大学総合文化研究科・特任助教)

マシュー・ハイネマン監督(スカイプ出演)

スケジュール 17:00 開会の言葉
17:10 映画『ラッカは静かに虐殺されている』上映(92分)
~休憩~
19:00 シンポジウム
20:00 質疑応答
20:30 閉会の言葉
参加申込 下記必要事項をご記入の上、asnet[at]asnet.u-tokyo.ac.jpまでお送りください([at]を@に変換してください)。
・件名「【ラッカ】3/26上映シンポジウム参加申し込み」
・必要事項
①氏名
②連絡先
③職業(学生は学校名)
④応募理由(興味のある分野等)
※申込締切 3月24日(土)23:59
※学生ではない一般の方も参加頂けます
※定員に達し次第受付を終了いたします
※ゲストは変更になる場合があります
主催 東京大学 日本・アジアに関する教育研究ネットワーク

有限会社UPLINK

共催 中東映画研究会

東京大学 東洋文化研究所・班研究「中東の社会変容と思想運動」

東文研東洋学研究情報センター・セミナー

問い合わせ asnet[at]asnet.u-tokyo.ac.jp([at]を@に変換してください)

映画『ラッカは静かに虐殺されている』4月14日(土)よりアップリンク渋谷、ポレポレ東中野ほか全国順次公開
【HP】http://www.uplink.co.jp/raqqa/
【Twitter】https://twitter.com/RaqqaMovieJP